なぜ聖路加に人が集まるのか 医療の質、医者の資質
●なぜ聖路加に人が集まるのか 医療の質、医者の資質
福井次矢 光文社 2008年9月25日初版発行
聖路加の院長が語る医療のあり方、聖路加のやり方は参考になる面が多いと感じた。
◆ただ、ここで注意が必要なのは、レントゲンやCTの検査は放射線の被ばくをともなうということです。イギリスのオックスフォード大学が15カ国を比較研究したところ、診断のために行う放射線検査による被ばくが原因の発がんは、日本で飛び抜けて多く、年間の全がん発症者の3.2%を占めていると推定されました。ちなみに15カ国の平均は1.2%と日本の約3分の1の水準、アメリカでは0.9%、最も少ないイギリスは0.6%でした。
これは非常に気になる数字です。医師不足を検査で補おうとする日本の医療の傾向や、高度な検査こそが高度な医療だと思い込んでしまう患者さんの心理が、この国の医療をいつの間にかゆがんだものにしているのではないかと、私には思えてなりません。(P75)
▲これは他にも類似の話をしているお医者さんがいたはず。怖い話だが。
◆どういうことかというと、患者さんの中に診療代を払えるのに払わない人がいるのです。これもにわかには信じがたい話でしょうけれども、そういうモラルの欠如した人が今の日本にはたくさんいます。その人たちに共通しているのは、病院側の対応をあれこれと非難し、「だから払わない」と一方的に主張することです。こちらがいくらお願いしても頑として払ってくれません。おっしてだいたいは高級自動車に乗って去っていきます。
他の病院でも似たような状況らしく、聖路加と同規模の病院であれば、年間数千万円の未収金が出ているようです。未収金の回収を専門業者に委託している病院もあります。
聖路加では以前、未回収の患者さんの家を職員が一軒一軒回って、お金を払ってくれるよう説得に当たっていました。しかし、それはそれで大変な仕事ですし、職員に万が一のことがあってはいけないので、現在では訪問しての回収は行っていません。未収金については泣き寝入りするか、年間このくらいは発生するものという金額を見込んで、経営計画を立てるしかないのが現状です。(P82~83)
▲最近報道されるようになってきているが、本当に患者側のモラルはひどいことになっている。
その果てに何が起こるか。
◆重症の患者さんを診ているのは、主として病院の勤務医ですので、訴訟や刑事罰のリスクから最も手っ取り早く解放される方法は、病院を辞めて開業することです。開業医になってしまえば、重症の患者さんが診療所にやってきたとしても、病院に紹介すればいいのです。昨今の開業ラッシュから透けて見えるのは、訴訟や事件のリスクからなんとかして逃れたいという医師たちの偽らざる本心です。それに開業医になってしまえば、きつい当直勤務はありませんし、土日は休み、収入もいい……。そうしたいろいろな動機が合わさって、勤務医が次々に病院を辞め、開業医へと転身していきます。(P83)
開業ラッシュの原因はいくつもあるだろうが、このあたりは医師の心理の記述という面で興味深い。
◆2006年7月、聖路加では法務課を新設しました。それまで総務課が担当していた業務のうち、訴訟やトラブルに関する件などを専門に扱ってもらうためです。(P109)
▲病院がここまでやらなきゃいけない時代なのかと軽くショック。でも仕方ないというのはよく分かる。
◆患者さんにとっては結果がすべてであるのは当然です。けれども医師は、確率的にしか予測できない不確実な状況に置かれているのです。このことがなかなか伝わらないことに、私は強いもどかしさを感じます。(P160)
▲この後著者は教育の重要性を訴える。確かに、基礎的な素養がないこと、敢えてよくない言葉を使えば、国民の無知がいろんな問題の解決を困難にしているのは間違いないと感じる。知ろうとしないことは罪なのだろう、おそらく。
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