「タックス・オブザーバー当局は税法を理解しているのか」志賀櫻 その2
「タックス・オブザーバー当局は税法を理解しているのか」志賀櫻 その2
タックス・オブザーバー当局は税法を理解しているのか
志賀櫻
NP通信社 2015年9月1日発刊
続きです。
今度は、この本で評価できるところ。
1つはタックス・ヘイブン対策税制についての記述。
「昭和53年度税制改正におけるタックス・ヘイブン対策税制導入時の文献を調べると、高橋元監修「タックス・ヘイブン対策税制の解説」(清文社・昭和54年)の担当官説明には、「軽課税国に所在する子会社等であっても、、そこに所在するのに十分な経済的合理性があれば、それは我が国の税負担を不当に減少させるための手段となっていないと考えられる」という点について、疑問の余地なく一貫した説明がされている。
(略)
まず、課税当局はタックス・ヘイブン対策税制の立法趣旨を理解することなく租税特別措置法の規定を形式的にあてはめて課税を行った。そして異議審理庁は異議申立てを棄却して、国税不服審判所も審査請求を棄却した。納税者が、さらに司法の判断を求めたところ、大阪地裁も大阪高裁も同様に立法趣旨を理解することなく納税者を敗訴させ、最高裁はこの事件を取り上げようともしなかった。」
(同書P59~60)
「タックス・ヘイブン対策税制の本来の趣旨は、国際的租税回避の防遏(ぼうあつ)である。このような立法趣旨については、立法担当官の著述に明らかである。例えば、高橋元監修「タックス・ヘイブン対策税制の解説」(清文社・昭和54年)の81ページ以下に記されている。
(略)
租税回避一般、なかんずく課税繰延べを防ぐことが、当初のタックス・ヘイブン対策税制の立法趣旨であった(ただし、平成21年度の税制改正によって「外国子会社配当益金不算入制度」が導入されてからは、課税繰延べが租税回避行為から外れたので、タックス・ヘイブン対策税制の存在理由は、課税繰延べ以外の租税回避行為が対象となる)。
(略)
これは、そもそもの立法政策として、「タックス・ヘイブンに子会社を設立する場合であっても、そのことに「経済合理性」があるのであれば、タックス・ヘイブン対策税制は適用しない」ということが当初から宣明されていたためである。
(略)
問題は適用除外4要件をすべて充足することと「経済合理性」があることとは全くイコールであるのか否かである。」
(同書 P72~74)
そして、これらからわかるように、著者は、租税法解釈での立法趣旨を重視している。
この点は、当然のようですが、評価したい。
文理解釈も、趣旨があってこそというのは、関根稔先生がいつも仰ることですが。
趣旨を考えない条文解釈などあり得ないということで、軌を一にしている。
繰り返しになりますが、上から目線が目立つ本です。
しかし、学問や法律への姿勢は真摯だと感じました。
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