規範的要件と事実要件(ゼロからマスターする要件事実)
規範的要件と事実要件(ゼロからマスターする要件事実)
〇ゼロからマスターする要件事実
第18回 規範的要件と事実要件
岡口基一(東京高等裁判所判事)
内容は、「規範的要件と事実要件の区別と統一的理解」について。
以下、勝手に小見出しを付けてまとめますが。
1)規範的要件とは何か
「裁判官による規範的評価を必要とする法律要件のこと」
ex.即時取得における過失(民法192)
◆学習者としての勝手なコメント)
伊藤滋夫「要件事実・事実認定入門」では、ちょっとニュアンスが違って。
「規範に関することを内容として定めた要件が規範的要件」だとする。
そして、事実ではなく評価と見るべきものだが、規範とは関係ないものがあると。
「規範的要件・評価的要件(以下一括して,「評価的要件」と言う」と括っている。
規範的というと、「~すべき」という規範の有無を想起させるだろう。
個人的には、用語法としては、こちらの伊藤説の方が素直な気がする。
もちろん、著者は生の実務表現を使っているのだと思うが。
後で本文中で「規範的に評価される」との説明も出てきます。
2)事実要件とは何か
「規範的評価を伴わない通常の要件」
ただし、「あてはめの評価」が必要になることはある。
そのため、事実要件でも、評価の問題が生じることはある。
ex.弁済(事実要件)
現金交付であれば弁済に当たることは明かだが。
単に発行者不明の小切手を交付しただけ(A)では、そうは言えない。
→事実要件でも、あてはまるかどうかの評価の問題が生じる
◆学習者としての勝手なコメント)
恐らくだが、比較的、事実としてこうだと言いやすい要件。
(あくまで、規範的要件と比較して、相対的に言えばだが)
評価の泥沼に、それほど入らなくても、判断しやすい要件。
(繰り返すが、それでも評価ゼロではないので、あくまで相対的に言えば)
なお、区別の基準として、下記の伊藤滋夫氏の説明がわかりやすそう。
「取りあえずは,その基準としては,ある表現を用いた場合に,その表現から誰でもが共通のイメージを抱くことができる場合には,その表現を事実の表現として扱ってよいけれども,ある表現を用いた場合に,その表現から各人がまちまちのイメージを持つような場合には,その表現を事実ではなく評価として扱うということにする,と考えればよいでしょう。」(前述書P79)
ここから、弁済には共通のイメージが持てても、過失には持てないとの説明がある(同P79-80)。
3)実務における要件事実とは
証拠調べ前に、要証事実は何かを明確化することが、要件事実論の大きな役割。
仮に以下2つの主張(上記(A)と下記(B))をしたとして。
1つは上記(A)で、弁済に該当しないので。
主張自体失当として、証拠調べの手前で、抗弁と認められない。
もう1つの主張は、預金小切手を債権者に交付したこと(B)であれば。
これは、弁済に該当するので、弁済の要件事実を主張していることになる。
ここでは、「あてはめの評価」を経た具体的事実が、要件事実とされている。
c.f.
ロースクールでは、抽象的な法律要件を要件事実としている。
→実務家から見れば、言葉を言い換えただけにしか見えない。
ただし、著者の説明は現時点では、司法研修所でも教えなくなっている由。
◆学習者としての勝手なコメント)
ここはちょっと本論から言えば脱線か。
4)規範的要件では主張自体失当とされる範囲が相対的に狭い
規範的要件の要件事実とは、その法律要件にあてはまると、
規範的に評価される具体的事実。
ex.不法行為における過失
「相手方は青信号で交差点に進入した」との主張
…… 青信号で交差点に進入するのが原則なので
一見すると、主張自体失当に見える。
→しかし、交差点内で転倒している老人を見ても、
ブレーキをかけなかった場合であれば、
青信号で交差点に進入した側の過失があり得る。
主張自体失当の可能性がある主張でも、要件事実として、
証拠調べに入ることもある。
◆学習者としての勝手なコメント)
評価は総合的な判断がされるので、短絡的に結論が出しにくい。
背景事情として考慮することも踏まえ、まな板には載せるの意味だろうか。
5)まとめと次回へのイントロ
省略します。
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コメント
丁重なリプライありがとうございます
今後とも宜しくお願いいたします
投稿: パスカル | 2017/05/23 13:11