実現しなかった並木教授の夢(「ゼロからマスターする要件事実」第26回)
実現しなかった並木教授の夢(「ゼロからマスターする要件事実」第26回)
月刊税理2018年2月号(ぎょうせい)より。
○ゼロからマスターする要件事実
第26回 実現しなかった並木教授の夢
岡口基一(東京高等裁判所判事)
裁判官だけがブロックダイアグラムを組み立てていた時代に転換期が来て。
平成8年民訴法改正で、訴訟当事者が裁判官と要件事実を把握できるようになった。
まさに、かつて並木茂教授が待ち望んでいた状況が到来したはずだった。
ところが、実際には、そのような理想的な運用はされていないのだと。
ここまでが前回の話の復習。
ではそれは何故か、というのが今回の話。
答えは、従来判決スタイル廃止と研修所での要件事実論教育廃止の2つが根本だと。
まず、従来の判決スタイル廃止による影響だが。
裁判官は、要件事実の把握・ブロックダイアグラム構築が必須でなくなった。
従来の起案では必須だったので、先回りして作成しておく意義があった。
ところが、現行制度では、各争点での当事者主張を列挙するだけになった。
それでも、裁判官にとって必須の手続きならやらざるを得ないわけだが。
現実の訴訟事件の多くは、構造が単純で、ルーチン処理でよくなってしまう。
結果、判断に不要な、2度手間の作業をするバカはいない、となってしまった。
全く裁判官にその気にさせない流れができてしまった。
更に、司法研修所での要件事実論教育廃止は、能力低下を招いた。
かつてと異なり、複数訴訟物など複雑な案件で対処できない法曹が増えた。
代理人弁護士はもちろんのこと、裁判官自身も能力低下してしまっている。
いや、そう著者が断言されているので、そうなのでしょう。
恥をかきたくないので、弁護士は裁判官にお任せしようとなるし。
恥をかきたくないので、裁判官は後で一人で考える方がいいやとなる。
弁論終結後に、文句言われない状況で裁判官が従来通り判断する。
なので、訴訟当事者と裁判官の共同作業にはならないのだと。
では、何故、判決スタイルの変更と研修所の要件事実論教育廃止が生じたのか。
次回は、その経緯を説明しますと。
読んでいて疑問に思うのは、現実の訴訟事件の多くはダイアグラム構築不要との話。
素人に分かるように話を省いているせいでしょうけど、何故なのか理解できず。
普段同じようにやっていれば、多少難しくても、同じ方法でやるというけれど。
現場はそうでも、それって本当に、できていることになるのだろうかと。
もっと言えば、現場はともかく、最高裁はそれでいいと思っているのだろうか。
最近の国税庁のスタンスなど見ていると、上が許容するのがちょっと想像できない。
むしろ、制度としては、逆の方向に動きそうな気がするけれど。
その意味で、もっと別の理由が背景にありそうな気がしてしまうのですが。
まぁ、次回以後の説明を楽しみにしましょうか。
ところで、今回分の目次は「実現しなかった並木享受の夢」となっている。
最近ぎょうせいの校正ミスにはもう驚かない現実があるとは言え、なんというか。
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