弘中弁護士が語る刑事裁判における「人質司法」の問題
弘中弁護士が語る刑事裁判における「人質司法」の問題
障害者郵便不正事件における元厚労省村木厚子氏自身の話ではなく。
重要参考人とされた上村勉元係長の被疑者ノートの話が恐ろしい。
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○弘中氏
(略)
同様に,もう一人の障害者団体の代表,あるいは,厚労省の元係長という方々も,起訴直後に保釈されました。これは彼らが全面的に自白をしていて,検察官が保釈に反対しないという態度を取ったためであります。
ところで,この元係長さんは,村木さんの事件で最重要証人でもあったわけですけれども,御自分の人質司法の状況を,当時,被疑者ノートという形で克明に記録しておりました。これは後に証拠として提出されましたので,私どももそれを詳しく見ることができたわけですが,例えばこのノートの中に,この方は最初別件で逮捕されたわけですが,最初に身柄を拘束されて間もない時期にこういうことを書いています。「段々外堀から埋められている感じ。逮捕された私から村木さんの関与の供述が得られれば検察のパズルは完成か。今後,私の供述を待たず,厚労省職員の証言をもって村木に自白を迫るのか。仮にそうなったら孤立している私はどうなるのか。全体の流れに乗った方が有利なのか迷っている。いつまでも違った方向を見ていると勾留期間が長期化しそうで怖い。しかし,村木の関与は思い出せない。どうしたらいいのか。」,こういうことを書いております。
この元係長は,最初の逮捕の段階では村木さんについて関与を認める供述をしなかったわけですが,別件の起訴後に再逮捕されました。その再逮捕された時点での冒頭の時点ではこのノートにこう書いております。「思い出せるものならとっくに思い出しているという怒りにも似た感情が湧いてくるがじっと我慢している。覚えていないものを思い出せというのはつらい。気が狂いそうになる。私はどうなるのだろうか。」と書いております。そして,その3日後のノートには,「もう無駄な抵抗はしないでおこうと思う。早くここから出たい。まともにものを考える状態ではない。また逮捕されて20日間拘置になったら困る。とにかく疲れた。」,こういうふうに書いています。そして,この直後の時点で彼は内容虚偽の自白調書にサインをするようになったわけであります。そして,二つ目の事件の起訴寸前のノート,つまり最後の段階であります保釈寸前でありますが,「保釈という甘い餌の誘惑に負けてしまった。」と書いているのであります。
元係長を偽の自白に追い込んだのは,今申し上げました経過からお分かりのとおり,再逮捕ということでありました。20日間の身柄拘束での取調べには何とか気力を振り絞って耐えることはできても,また逮捕されてゼロから身柄拘束が始まるという状況に追い込まれた場合のつらさは大変なものであります。再逮捕は一度で済むとは限りません,何回も続くかもしれないのです。その上,否認を続けていれば保釈も認められない可能性が高いのであります。人質司法というものの実態がどういうものかということは,この元係長の被疑者ノートに凝縮しているというふうに言えます。
法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第5回会議 議事録(平成23年11月29日(火))
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逮捕後の取り調べで追い詰められていく怖さが分かる。
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