« ゴーン容疑者、監査法人の指摘に「必要ない」(TBS) | トップページ | 最新の判決例から学ぶ 役員退職給与の税務 完全理解 »

2018/11/26

中途半端な存在となった「新問研」(ゼロからマスターする要件事実)

中途半端な存在となった「新問研」(ゼロからマスターする要件事実)

 月刊「税理」(ぎょうせい)2018年12月号より。

○ゼロからマスターする要件事実 第36回
 判決書作成の裏技まで教える「新問研」
 岡口基一(東京高等裁判所判事)

 今回もタイトルいじっていますが、「新問研」の話の続きです。
 あと、順番も、私の理解の流れで、勝手に変更していますが、御容赦を。

 従来の要件事実教育では、第一の要件事実を前提にしていた。
 つまり、判決書の「当事者の主張」欄に記載すべき事実が要件事実という話。

 で、実は、「新問研」は、この第一の要件事実を前提にした解説が行われている。
 特に、裁判官による当事者の主張認定を含む「摘示」という概念は、それを背景にしないと理解不能だ。

 表向きの話としては、「新問研」は、初学者向け書籍として編まれた筈だ。
 汎用性のある主要事実つまり、第三の要件事実を前提とした、従来の要件事実教育の代替として提供されている「要件事実」教育で使われる前提だった。

 ところが、「新問研」は、内容的には全くそうなっていない。
 むしろ、第一の要件事実の教科書になってしまっているのだ。

 ここまでが、前回の話だったわけですね。
 で、今回は、その極めつけの話になると。

 109頁の所有権に関する訴訟について、原則的な方法で説明するとどうなるか。

       (要件事実)
  請求原因:原告の現在の所有
  抗弁  :原告の過去の所有

 これからすれば、原告の所有の主張を、判決書の「当事者の主張」欄で、請求原因と抗弁とで繰り返し示すことになる。

 実際、司法修習生向けの「紛争類型別の要件事実」では、そのようにしていた。
 これが、教育を考えると、素直なわけですね。

 ところが、「新問研」109頁は、そうなっていない。
 原則的な方法の説明もなく、いきなり例外的な方法で記載されているというのですね。

 判決書「当事者の主張」欄の「請求原因」で、即「原告の過去の所有」を摘示する。
 そして、被告がこれを認めたとの認否まで摘示しておけば、ショートカットできると。

 それは、被告が認めたことで、原告の過去の所有が確定するだけではなく。
 現在までその所有が存続していると扱われることになるからだと。

 この理屈、過去所有に現在所有あるいはその推定が含まれるのですかね。
 なんとなくは分かるのですが、ちょっとモヤモヤ。

 話を戻すと、まぁ、判決書作成実務から言えば。
 できるだけ、繰り返しを省略するのは、当然と言えば当然ですね。

 ただ、これが実務手法で普通であるのは、確かに当然だとしても。
 初学者向けの教科書であるべき書籍に、いきなりこれを書くのか、という疑問ですね。

 原則はこうだけど、例外はこうだという、位置づけの説明もなく。
 112頁で分かっている人にしか分からない説明を入れていると。

 なるほど。

 単に、当事者主張を平面図で捉えると、第三の要件事実でいいわけですが。
 裁判官という超越者、言わば神の視点が加わると、第一の要件事実になってくるということなんでしょうね。

 あるいは、プレイヤーとゲームマスターの視点との違いと言い換えた方がいいのかな。
 統合概念を持った人間が、生の主張を加工・組み替えするということですが。

 何にせよ、この書籍が中途半端だろうというのは同意です。

|

« ゴーン容疑者、監査法人の指摘に「必要ない」(TBS) | トップページ | 最新の判決例から学ぶ 役員退職給与の税務 完全理解 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

税務」カテゴリの記事

法律全般」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« ゴーン容疑者、監査法人の指摘に「必要ない」(TBS) | トップページ | 最新の判決例から学ぶ 役員退職給与の税務 完全理解 »