中途半端な存在となった「新問研」(ゼロからマスターする要件事実)
中途半端な存在となった「新問研」(ゼロからマスターする要件事実)
月刊「税理」(ぎょうせい)2018年12月号より。
○ゼロからマスターする要件事実 第36回
判決書作成の裏技まで教える「新問研」
岡口基一(東京高等裁判所判事)
今回もタイトルいじっていますが、「新問研」の話の続きです。
あと、順番も、私の理解の流れで、勝手に変更していますが、御容赦を。
従来の要件事実教育では、第一の要件事実を前提にしていた。
つまり、判決書の「当事者の主張」欄に記載すべき事実が要件事実という話。
で、実は、「新問研」は、この第一の要件事実を前提にした解説が行われている。
特に、裁判官による当事者の主張認定を含む「摘示」という概念は、それを背景にしないと理解不能だ。
表向きの話としては、「新問研」は、初学者向け書籍として編まれた筈だ。
汎用性のある主要事実つまり、第三の要件事実を前提とした、従来の要件事実教育の代替として提供されている「要件事実」教育で使われる前提だった。
ところが、「新問研」は、内容的には全くそうなっていない。
むしろ、第一の要件事実の教科書になってしまっているのだ。
ここまでが、前回の話だったわけですね。
で、今回は、その極めつけの話になると。
109頁の所有権に関する訴訟について、原則的な方法で説明するとどうなるか。
(要件事実)
請求原因:原告の現在の所有
抗弁 :原告の過去の所有
これからすれば、原告の所有の主張を、判決書の「当事者の主張」欄で、請求原因と抗弁とで繰り返し示すことになる。
実際、司法修習生向けの「紛争類型別の要件事実」では、そのようにしていた。
これが、教育を考えると、素直なわけですね。
ところが、「新問研」109頁は、そうなっていない。
原則的な方法の説明もなく、いきなり例外的な方法で記載されているというのですね。
判決書「当事者の主張」欄の「請求原因」で、即「原告の過去の所有」を摘示する。
そして、被告がこれを認めたとの認否まで摘示しておけば、ショートカットできると。
それは、被告が認めたことで、原告の過去の所有が確定するだけではなく。
現在までその所有が存続していると扱われることになるからだと。
この理屈、過去所有に現在所有あるいはその推定が含まれるのですかね。
なんとなくは分かるのですが、ちょっとモヤモヤ。
話を戻すと、まぁ、判決書作成実務から言えば。
できるだけ、繰り返しを省略するのは、当然と言えば当然ですね。
ただ、これが実務手法で普通であるのは、確かに当然だとしても。
初学者向けの教科書であるべき書籍に、いきなりこれを書くのか、という疑問ですね。
原則はこうだけど、例外はこうだという、位置づけの説明もなく。
112頁で分かっている人にしか分からない説明を入れていると。
なるほど。
単に、当事者主張を平面図で捉えると、第三の要件事実でいいわけですが。
裁判官という超越者、言わば神の視点が加わると、第一の要件事実になってくるということなんでしょうね。
あるいは、プレイヤーとゲームマスターの視点との違いと言い換えた方がいいのかな。
統合概念を持った人間が、生の主張を加工・組み替えするということですが。
何にせよ、この書籍が中途半端だろうというのは同意です。
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