「問題は憲法じゃない、憲法学者だ!」(「憲法学の病」篠田英朗)
「問題は憲法じゃない、憲法学者だ!」(「憲法学の病」篠田英朗)
新潮新書の一冊で、著者は国際政治学者。
帯に目が止まり、購入。
△
問題は憲法じゃない、憲法学者だ!
宮沢俊義、芦部信喜、長谷部恭男、石川健治、木村草太……。
「ガラパゴス憲法学」の病理を国際政治学者が徹底解剖する。
▽
著名な憲法学者たちの実名を出す、なかなか刺激的な帯です。
昔から、長谷部教授の書いた文章は、なんかキザというか。
スノビッシュな匂いプンプンで、正直読む気しなかったのですが。
(本書でもP249あたりから、その点を指摘されていますが)
ただ、近年の長谷部恭男教授の言説には呆れました。
これは以前も書いていますが、ブログでは実名挙げてなかったですね。
更に、最近、気鋭の憲法学者として紹介される木村草太氏も。
もう何言っているのこの人、状態で、理解不能。
正直、憲法学者って、一体何者のつもりで上から目線なのか。
全く理解できないや、と思っていたので、これを手に取りました。
そうすると、読み進めてなるほどです。
憲法の条文を読む際に、国際法の文脈で読むべきだったというのですね。
宮沢・芦部説は、どこから湧いてきたのかわからない勝手な解釈で。
むしろ、19世紀ドイツ国法学的であると。
交戦権の否認というのも、日本憲法オリジナルという話ではなく。
国際法が自明のことを明確化のために書き込んだものであると。
なんか、いろいろ腑に落ちることが多い。
ただ、この方独自説では困るし、他の方はどうかと気になったので。
本屋で並んでいた「立憲主義という企て」(井上達夫)をめくってみた。
東大出版会の本で、東大教授かつ、かつて芦部講義を受けていると言いつつ。
芦部説に対する反対を述べている。
この井上教授は、篠田教授とはまた違う立場のようですが。
ただ、長谷部恭男教授への批判に相当紙数を割いていました。
やはり、長谷部教授の言説って、おかしいよな、そうだよなと。
なので、弟子筋である木村草太氏に違和感しか感じないのも、俺おかしくないなと。
で、もとの篠田教授の本に戻ると、かなり過激ですね。
「残念ながら、日本では、横田のような国際法からの冷静な指摘が、憲法学によって否定されてしまった。司法試験や公務員試験を通じて、憲法学通説を熱心に覚えながら、国際法は全く勉強しない法律家が大量に生産されて、憲法学者の似非国際論のほうが正しいかのような見方が広まってしまった。(P108)」
「日本政府関係者には、一刻も早く、数十年前の公務員試験の際に憲法学の基本書で学んでしまった似非国際法の知識を取り払ってほしい。一刻も早く、日本拳法における『交戦権』の否認とは、国際法遵守の宣言である、ということに気づいてほしい。(P110-111)」
うひょーですが、これ読むと、ある疑問が解ける。
つまり、一部の法律家たちが、なぜ、あれほど思想的に偏っているのか。
そして、その偏りをものともせず、信念を持って自分が正しいと信じられるのか。
要するに、東大法学部由来の知識で、正しいと思っているからですね。
だから、上から目線で、他の人間に教えてやる的態度。
こんなことも知らないのか、みたいな発言が多いにも、彼らの特徴。
そうか、多分、無自覚的に、権威に乗っているのでしょうね。
もちろん、東大法学部には、立派な教授たちもいっぱいいるでしょうし。
弁護士には、東大法学部出身者で、私の敬愛するM先生もいるのですが。
しかし、そうか、憲法の教授たちがダメダメだったんですね。
なんか、すっごく納得できますね。
で、この著者の勢いは、まだ止まらない。
というか、原理の説明になると、更にヒートアップ。
芦部教授説をめった切り。
ついでで小林直樹氏も切られているのが、ちょっと可哀想ですが、それはさておき。
立憲主義について、篠田教授は、前文通り、信託として理解せよと。
政府と人民との社会契約が基礎になるのだと。
つまり、革命時の仏流のルソー的国民主権によるのではなく。
英米流で、人民に権威の根拠があると理解すべしという。
「政府は、単に制限されることによって立憲主義に貢献するのではない。政府が契約を遵守し、人民の福祉の向上に役立つ政策をとっていくことこそが、立憲主義である。(P136)」
「したがって、日本の憲法学が、国民主権にこだわり、ドイツ・フランス思想の考え方を前提にし、アメリカ憲法思想の考え方を排斥してきたのは、決して偶然ではない。むしろ、ある特定の政治的立場の結果であった。(P137)」
信託法を勉強したあとで、あれば、このあたりよく理解できるだろう。
びっくりは、「平和を愛する諸国民」という用語について。
GHQ草案の「peace-loving people」を翻訳したものであり。
1941年大西洋憲章で使われている言葉だが、そこでの意味は。
なんと、連合国側の諸国を指す言葉だったのだと(P142)。
1945年国際憲章でも同じような言葉が登場する。
日本国憲法が制定により明らかにしようとしたのは、国際法遵守だったと。
いやー、これは良い本でした。
是非、一読をおすすめしたい。
ただ、憲法の本を読めというと、それだけで色物扱いされますね。
それが、日本国民多くの認識で、なぜそうなったかは本書の認識通りかな。
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