裁判規範としての民法の本質(ゼロからマスターする要件事実)
裁判規範としての民法の本質(ゼロからマスターする要件事実)
月刊「税理」2020年06月号より。
○ゼロからマスターする要件事実 第54回
請求権はいつ発生する?
岡口基一(仙台高等裁判所判事)
また、タイトルは勝手にいじっています。
すみません。
結論から言ってしまうと、今回、普通の読者にはかなり分かりづらいです。
というのは、ある概念の説明を省略して説明しようとしたからですが。
いわゆる、権利既存の考え方の当否について。
その言葉を出さずに説明しようとして、失敗している感じです。
で、もっと言ってしまうと、その手前の説明が不足していて。
そもそも、裁判規範としての民法、行為規範としての民法とは何か。
そこの本質的説明が抜けているのだと思います。
最も簡単に言えば、両者の差異は、誰を名宛人とするのかの違いですね。
以下は、この稿から離れてしまいますが。
坂本慶一氏の「新要件事実論 要件事実論の生成と発展」(悠々社2011年)を踏まえています。
まず、裁判規範としての民法は、裁判官が名宛人となるもの。
しかし、行為規範としての民法は、国民が名宛人となるもの。
そして、両者では、効力発生の根拠も異なっている。
前者は法規であり、後者は合意である。
権利既存の考え方というのは、行為規範としての民法の考え方で。
裁判の手前で、既に権利義務が生じているという整理。
証明責任規範を必要とするのは、この権利既存が前提。
主要事実の存否の真偽不明時どうするか、という話なので。
当事者間だけであれば、この説明でも多分いいわけですね。
合意が根拠で権利義務関係が生じているのだと。
実際、民法での権利義務関係が生じる根拠の説明で。
そのような説明がテキストにあったような気もします。
しかし、裁判官の視点から言えば、実はそうではない。
ここからは、誤解があり得る、私なりの理解になりますが。
裁判官には、いわば2進法で権利のあるなし等が判断できることが必要。
つまり、民法は、プログラムとして判断できなければならないわけです。
そこで、法規というプログラムで処理できなかったら。
そもそも、権利は、もう最初から生じていなかったと判断する。
権利根拠が法規だから、該当しなければなかったことになる。
プログラムがランできなければ、結果は得られない。
多分、正確に言えば、判断結果により、最初からなかったと。
同値だと割り切る取り扱いなのだ、というべきなのでしょう。
法規で処理することで、裁判官には常に結論が出せることになる。
民法の要件効果体系は、裁判処理プログラムそのものだというわけです。
また、このように裁判規範としての民法の立場に立って。
権利既存を否定することで、証明責任規範の必要性もなくなる。
民法が誰のための規範なのか、という名宛人を考えることで。
証明責任・立証責任との用語は、従来と異なる用法が可能になった。
今回の話は、畢竟、そのような内容として理解できるのでしょう。
いや、私が勝手に、自分が理解できるように整理してみただけですが。
なお、坂本慶一氏の「新要件事実論」は、去年、名古屋栄のブックオフで入手したものです。
入手できたのはたまたまですが、ラッキーでした。
これだから、本屋探索が止められないんですよね。
まぁ、当分、他の地域の散策は難しい時期になりましたけど。
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