法律上の推定_ゼロからマスターする要件事実(月刊税理)
法律上の推定_ゼロからマスターする要件事実(月刊税理)
月刊税理2020年1月号より。
ゼロからマスターする要件事実
第61回 法律上の推定
岡口基一(仙台高等裁判所判事)
前回予告投球のあった、2つの概念の違いの話。
「請求原因の要件事実」と「講学上の請求原因事実」について。
ただし、後掲の説明例では、請求原因ではなく抗弁の話になっているので。
「抗弁の要件事実」と「講学上の抗弁事実」とに置き換わっていますが。
両者の差異のポイントは、立証要素がビルトインされているか。
立証の特別規定があると、2概念は異なり得る。
ということで、立証の特別規定の1例として。
以下、法律上の推定を取り挙げて、2概念の差異説明が進む。
民法619条1項は、賃貸借契約の黙示の更新と言うのだそうです。
ここに推定規定があり、これは法律上の推定規定なのだと。
△
民法 第六百十九条(賃貸借の更新の推定等)
賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。
この場合において、各当事者は、第六百十七条の規定により解約の申入れをすることができる。
2 (略)
▽
まず、賃貸借契約で期間満了により賃貸人が賃借人に対して。
賃借物の明渡しを求める訴訟を提起している、という前提。
建物明渡請求権について、請求原因の要件事実が何かというと。
賃貸借契約で定められた賃貸借期間の終了、というのもいいでしょう。
問題は、次に、賃借人が抗弁を主張するということになり。
契約が更新されたというために、更新の合意を立証するのが素直。
抗弁としての事実は、両者間で更新合意がされたことになり。
この場合、これが講学上の抗弁事実、かつ、抗弁の要件事実になり、差異が生じない。
しかし、上記の推定規定による更新の合意の立証も可能。
つまり、直接立証でない間接立証ルートがあるということなんでしょうね。
この推定規定を用いた立証の場合には、概念の差異が生じてくるのだと。
まず、講学上の抗弁事実は、変わらず、両者間で更新合意がされたこと。
ところが、抗弁の要件事実は、条文における
「賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べない」
の部分ということになるので、2概念間に差異が生じていると。
なるほど、なんとなくですがイメージがつかめた気がします。
この例だと、立証すべきゴールが分岐して、マルチプル・チョイスになるのかな。
このような2概念に差異が生じるパターンは、この法律上の推定だけではなく。
立証責任規定がある場合や、判例が立証責任を転換している場合もあり。
そのあたりは、次回に扱われるのだと。
今回の例と同じように、複数選択肢の問題になるのか、それともまた違う話になるのか、楽しみに待ちたいと思います。
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