野村HDが日本IBMに「敗訴確定」、システム開発の失敗巡る訴訟の上告を取り下げ_日経クロステック
野村HDが日本IBMに「敗訴確定」、システム開発の失敗巡る訴訟の上告を取り下げ_日経クロステック
野村HDが日本IBMに「敗訴確定」、システム開発の失敗巡る訴訟の上告を取り下げ
鈴木 慶太、玄 忠雄 日経クロステック/日経コンピュータ
2021.12.13
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/11853/?n_cid=nbpnxt_twbn
東京高判令和3年4月21日平成31(ネ)1616が確定したとのこと。
判決文
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/584/090584_hanrei.pdf
うーむ、高裁判決文、読んで見ると、なかなか。
「野村証券においては,SMAFW業務は投資顧問部の担当であった。投資顧問部内においては,SMAFWのフィー計算徴収業務につき,その業務知識やルール(詳細複雑なフィー徴収の要件や計算手法を含む。)が特定の1名の社員(Fee担)に属人的に独占されていた。野村証券の他の社員全員にとっては,フィー徴収の業務内容がブラックボックス化していて,Fee担に聞かなければ把握できないという実態にあった。IBMの社員は,本件開発業務が本格化する前(平成23年4月に概要設計フェーズに入る前)は,このような実態を知らなかった。本件開発業務が本格化した後においては,IBMの社員がFee担以外の野村証券の社員にフィーの計算徴収業務に関する質問をしても,回答が得られないのが常であった。このようなフィー計算徴収業務のFee担への属人化,ブラックボックス化は,フィー計算徴収の要件や計算手法が詳細複雑であることやFee担の言動が他罰的,攻撃的であること(野村HDらの証拠説明書の表現によれば「辛辣」であること)とあいまって,本件開発業務の隘路となっていった。」
(理由 第1当裁判所が認定した事実)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/584/090584_hanrei.pdf#page=18
「フィーのギャップは,項目としては指摘があるが,フィーの計算徴収に詳細複雑なルールがあること(後に,深刻なギャップの存在及び工数著増や手戻り頻発に伴うスケジュール遅延の原因として問題となる。)は,IBMの担当者は知らず,野村証券側でも投資顧問部の特定の1名の従業員(Fee担)以外は知らなかった。開発総費用の概算見積り金額は17億7900万円,稼働後の運用保守(海外企業であるテメノス社が行う。)の費用の概算見積り金額は月額2820万円とされた。フィー計算徴収の詳細複雑なルールの存在を知らないままフィー全般をシステム化しようとしたこと及びフィー計算徴収の詳細複雑なルールの具体的な内容をFee担1名しか知らないことは,後に,WMの標準機能に合わせた開発というパッケージソフトによる開発の利点を打ち消す原因となった。
」
(理由 第1当裁判所が認定した事実)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/584/090584_hanrei.pdf#page=21
どこの会社にも、こういう人いるんでしょうねぇ……。
「概要設計段階において業務内容の確認が詳細なレベルに及ぶことにより,カスタマイズ量もある程度増加するのが通常であり,このことはIBMも予想していた。しかしながら,後に明らかになるように工数が2倍近くまで増加してしまうこと,これに伴い工数の増加が全体スケジュールに影響する程度に及んでしまうことは,想定していなかった。そのようなことは,通常は起こらないことであるからであった。」
(理由 第1当裁判所が認定した事実)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/584/090584_hanrei.pdf#page=28
「他方,IBMが,概要設計フェーズの冒頭から,SMAFWの全業務について,WMの標準機能で対応可能な形態への業務変更を検討していくことは,困難であった。IBMは,野村証券の業務に詳しくないからであった。また,概要設計フェーズにおけるカスタマイズ量の増大が,PoCや「要件定義書」と題する文書策定の過程において想定されていた程度の増大にとどまるのであれば,平成25年1月の稼働開始は可能であったとみられるから,このような対応もやむを得ない一面があった。」
(理由 第1当裁判所が認定した事実)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/584/090584_hanrei.pdf#page=30
一体どれだけ想定外だったのか、という話ですね。
つまり、これは、経験豊富なIBM側からして、非常に極端なケースだった。
「ヒアリングと分類を続けていくにつれて,平成23年5月には,投資顧問部の希望に沿って現行業務を踏襲し,WMの標準機能の使用に消極的なままであるとすれば,カスタマイズが必要となる部分の工数が,それまでの想定よりも著しく増大することが,IBMに判明していった。この情報は,速やかに野村証券と共有された。IBMは,要件を詳細に詰めていく過程で発見された新たなギャップについて,野村証券に対して対応の検討を求めた(乙154の6など)。しかしながら,投資顧問部の意向は,現行踏襲となるのが通常であった。この頃には,野村証券内部で,投資顧問部とIT戦略部のコミュニケーションが希薄であり,投資顧問部とIT戦略部が一緒に議論に参加する必要性も指摘されていた(甲11)。カスタマイズ量の増大は,想定を大きく上回る著しさで,本件開発計画の成功不成功に及ぼす影響が看過できないレベルとなる見通しとなった。標準機能でまかなえない開発必要数の増加分(機能数による。)は,「要件定義書」と題する文書の策定時と比べて,約2倍にまで増加していた。IBMは,速やかに,カスタマイズ量に看過できない増大が生じていることを野村証券に報告した。」
(理由 第1当裁判所が認定した事実)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/584/090584_hanrei.pdf#page=31
うわ、野村サイテー。
でも、ありがちなんだろうなぁ。
「平成23年7月27日のIBMと投資顧問部との協議(野村証券側の出席者はFee担のみ)では,Fee担が新たな業務要件(源泉プールの資金ショートが発生している口座一覧が確認できる機能)を追加した上,「今後もIBM側に伝えきれていない要件が見つかる可能性がある」と発言した。なお,Fee担は,その後も,他罰的かつ攻撃的な(野村HDらの証拠説明書の表現によれば「極めて辛辣な」)苦情を述べることを繰り返した(甲98,188,189,199)。また,Fee担は,同日「源泉プールへの資金移動取引をフィー徴収計算日など他のイベントと重ならないようにする」,「増額金額に対するフィー計算期間初日は変更適用日(常に営業日),他の計算期間初日は変更適用日ではなく月初日(休祝日を問わない)」,「契約変更に伴う案件が全て約定していないタイミングで全解約が発生する場合の最終精算金額の算出」など,概要設計フェーズ(平成23年6月まで)のヒアリングの機会にIBMに説明しておくことができた要件を,この段階で新たに持ち出し,本件開発業務の秩序だった計画的進行を妨げた。計画的進行の妨げとなるようなCR(変更要求)は,概要設計最適化フェーズ終了後の平成23年8月以降も,さらにはプログラムをいったん完成させてサブシステム間連結テストを開始すべき時期である平成24年に入ってからも,フィー徴収分野を中心として,Fee担から行われた。時機に後れた多数のCR(変更要求)は,プログラム製作作業時間確保の不十分と,これに伴う納品の遅れや品質確保の不十分,ひいてはテスト開始の遅れやテスト結果不良の主要な原因の一つとなった。Fee担においてパッケージベースのあるべき業務プロセスを検討した形跡もなく,Fee担の要求した新たな業務要件は,基本的に現行業務を踏襲するものであった(乙58,156)。」
(理由 第1当裁判所が認定した事実)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/584/090584_hanrei.pdf#page=36
野村は、問題社員の暴走を誰も止めなかったと。
その後も暴走は続いたようですね。
「平成24年8月24日(金曜日)の深夜のIBM社内メール(乙17)には,野村証券社内には,一方ではA1経営役がIBMによる本件システム開発を続けたがっていることを示唆してIBMによる代替プランの検討を提案する者がおり,他方ではSMAFWの現行システム(CUSTOMと接続中)を製作運用管理してきた野村総研の味方をする利害関係者たちもいること,野村総研の側に立つ者らの影響力が大きいことを指摘して,用心を勧める記載がある。野村総研が担当してきたSMAFWのシステムをIBMにパッケージベースで新たに開発させることについて,個々の経営陣や部署ごとに思惑が異なり,野村証券社内が一枚岩ではないことをうかがわせる。」
(理由 第1当裁判所が認定した事実)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/584/090584_hanrei.pdf#page=62
いや、暴走機関車の問題だけではなく、そもそも社内がぐちゃぐちゃだったと。
「以上によれば,本件システムを最終的に完成させることや,本件システムを平成25年1月4日にSTARのサブシステムの一つとしてSTARと同時に稼働開始させることが,契約当事者双方のビジネス上の目標であったという事実は認定できるものの,これらが契約上のIBMの債務として合意されたという事実を認定するには,無理がある。ましてや,本件各個別契約の締結に先立ち,IBMがWMを利用した本件システムの導入を提案して採用されたことをもって,IBMと野村HDの間に本件システムを完成させる合意がされたという事実を認定するには,無理があるというほかはない。他に,IBMが本件システムを完成させる債務を負っていたという事実を認めるに足りる証拠はない。」
第2 本訴事件についての当裁判所の判断 1 本件システムの完成義務について
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/584/090584_hanrei.pdf#page=72
IBMは所定の契約書で、フェーズごとに契約を締結しており。
そこでは、準委任契約として、完成義務を債務の内容としていない。
「準委任契約(仕事の完成を目的とした請負契約ではない)」と記載され」
なので、しっかり明記。
いや、まぁ、過去の経験からも、要件確定までは準委任契約って。
IBMとしては、当たり前なんでしょうね。
これで言えることは、野村側は、ここまでガッチリ契約で書いてあったのに。
力で押しつぶそうとしていた、という印象が強いということです。
IBMほどの規模がないベンダーなら、どうなるか、想像するまでもない。
「余罪」がいっぱいありそうですよね、野村の場合。
いや、私の勝手な所感に過ぎませんが。
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