一度きりの大泉の話_萩尾望都
一度きりの大泉の話_萩尾望都
一度きりの大泉の話
萩尾望都
出版社 : 河出書房新社 (2021/4/21)
発売日 : 2021/4/21
https://www.amazon.co.jp/dp/B092D32ZPY/
萩尾望都先生の漫画は、昔からかなり好きですね。
SFへの愛が溢れていた以前のものは特に。
後年のサイコ的なものは、たぶん読み手を選ぶのでしょうけど。
しかし、あれもまた萩尾先生でしか描けないものだったのでしょう。
で、萩尾先生と竹宮先生、そして増山さんがともに暮らした大泉。
今回、この本で分かったことは、その青春の日々は、必ずしもハッピーな日々ではなかったということ。
というよりも、今もって、萩尾先生の精神に影響を与える事件があった。
そして、そのことが、最近の萩尾先生を繰り返し苦しめているのだと。
この事件は、恐らく、誰が悪いというのではないのですね。
いや、非常に失礼な言い方をすれば、ある意味全員が悪いともいえるのですが。
ただ、若く思慮が足りない若者同士では、ありがちなことかもしれません。
世の中、いつの間にか、なんとなくそれは風化していく。
しかし、この場合、風化しなかったのですね。
なぜか。
萩尾・竹宮のお二人の才能が格別過ぎて、永続してしまうから。
時間が経っても、風化どころか掘り起こされることしかない。
この本を書いたのは、もう二度とこの話をしたくないから。
思い出すだけで変調をきたす話題に、触れたくないのだと。
萩尾先生が、この本を出すしかなかったことは、よくわかります。
そして、何故タイトルで「一度きりの」とつけたのか、という気持ちも。
私は、竹宮先生の作品も好きだし、増山さんが元になるカノンシリーズも好きです。
世にも稀な才能が集結して、あれら作品群が出来たこともまた否定できません。
でも、同じジャンルで、複数の才能あるクリエーターが創作を行っていけば。
どうしても、似たような作品を扱ってしまうことがあり得ます。
SF小説の世界では、それをお互いに茶化して扱う、ある種の寛容さがあった。
著作権侵害だなんて怒らず、やられたらやりかえしたれ、で笑いあったり。
しかし、彼女たちは若く、良くも悪くも、純粋過ぎたのでしょうね。
かぶりが生じたことを、突き詰めざるを得なくなってしまった。
もちろん、知識豊かな、そして先を見る目のあった増山さんがいたことで。
萩尾・竹宮両先生の作品世界が、当時、豊穣を得た部分はあるでしょう。
ただ、増山さんのコミットの仕方の危険性を、竹宮先生は気が付かなかった。
逆に、文中記述からは、萩尾先生は直感的に感じ取っていたのでしょうね。
カノンシリーズが完結しなかったことは、これでなんとなく納得できました。
共同作品の難しさを、改めて感じます。
そして、青春の苦さということについても。
青春というのは、後で美化されるけれど、決していいことばかりじゃない。
いや、それは皆知っている筈なのですが、他人には求めてしまう。
私は、この本に会えたことを素直に喜びます。
そして、だから竹宮先生を嫌いになったりもしないということも明言します。
この本は、萩尾ファンはもとより、竹宮ファン特にカノンシリーズを読んだ人には。
是非、読んでほしい本だと思います。
なお、読んでいて、萩尾先生の作風の変化はこの事件の影響かなと。
思っていたら、末尾の城さんの寄稿中で肯定する話が。
後年の作品群は、あの事件がなければ生まれていなかったのかと。
考えてしまうと、ちょっと複雑ですが、それもまた人生なのかも。
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